スコッチ自決のあと、ライは現れたバーボンに、スコッチを殺したのは自分だと告げた。
何故このような嘘をついたのか、しばらく悩んでいたのだが、ポイントは「ライのNOCバレ」と「バーボンの公安バレ」なのではないだろうか。
まずはライの方から。
ライは赤井秀一に戻った際、降谷零に電話越しで「NOCであることを疑っていた」という発言をする。
逆を言えば、バーボン=ゼロというあだ名=降谷零がイコールで繋がるまでは、バーボンがNOCである証拠は一切なかったのだろう。
スコッチ自決のとき、ライはバーボンが黒の組織の一員ではないと言い切れなかった。
これを踏まえて、あのときのライの行動を振り返る。
ライはスコッチがNOCバレしたとき、スコッチを逃がすことを決意したのだろう。
説得に向かったがスコッチと揉み合いになり(そのときは他の黒の組織のメンバーがいたのかもしれない)、投げ飛ばしたときにスコッチに銃を奪われた。
【銃を奪われた】は重大な過失だ。
ライはFBI捜査官だからこそ、銃を絶対に奪われてはならない教育を受けている。
ライ……赤井秀一は、あのとき絶対に許されないミスをしてしまった。
その後、ライは一度はスコッチの説得に成功する。
しかし階段から足音が聞こえてきた。
スコッチはとっさに色々考えただろう。
ライと協力して黒の組織のメンバーと戦うという選択肢もあった。
しかし、追ってきた他の黒の組織のメンバーが一人ではなく何人もいたらどうするのか。援軍がさらにきてしまったら。
ライを巻きこんで、上手くいけばいい。けれど上手くいかなかったら。
自分が死ぬだけならいいけれど、ライも死んでしまったら。
二人で死んで、二人から情報が漏れたら。
バーボンも危ない、公安もFBIも危ない、そんなことはできない。
スコッチは可能性に賭けることはせず、すぐにスマホを壊す道を選んだ。
追手はもうそこにいる。スマホだけを壊す時間はない。ライを巻きこむことはできない。銃でスマホを撃ち抜くしかない。
スコッチの目的はスマホの破壊で、死ぬ気はなかったけれど、死を選ぶしかなかった。
スコッチは死んだ。
ライはすぐにスコッチの意図を見抜いた。
同時に、お前はNOCの使命を全うしろという意思も受け取った。
そして階段を上ってきたのは、バーボンだった。
このとき、ライはバーボンをNOCだと疑っていても確証はなかった。
(確証があったとしても、FBIのNOCではないかぎり、ライはバーボンを信用できない。FBIにとって公安は敵の敵ではあるが、敵の敵は味方ではない。ときに協力できても、ときに協力できず敵に回ることだってある)
ライはバーボンの前で黒の組織の一員として喋り、行動するしかなかった。
NOCのスコッチに銃を奪われ、NOCの情報が入っていたであろうスマホごと心臓を撃ち抜かれてしまい、どこからきたのかという手がかりを失った、なんてことはあってはならない。
このライのミスはあまりにも重大で、知られたら組織からの信頼を失うかもしれない。
ライはスコッチを粛正したことにしなければならなかった。
とっさにそのふりをしたけれど、時間がなくてつめが甘すぎた。
そしてバーボンはあまりにも優秀すぎた。あの現場で我を失うことはなく、見るべきところをしっかり見ていた。
ライに散った血と、指先から、スコッチは自決だと気づいてしまったのだ。
このときのバーボンにとってのライは、黒の組織の一員である。
ライがなにかしら事情があってスコッチに自決を勧めたとしても、スコッチが死んだ事実は変わらない。
降谷零はライをただ憎むだけで良かった。
そして、ライのNOCバレの日がくる。
ライがFBIのNOC『赤井秀一』だと、バーボンの降谷零は知ることになった。
ただ純粋にライを憎んでいた降谷零は、別の感情を抱くことになる。
どうして、同じNOCのスコッチを助けてくれなかったんだ。
お前なら助けることができただろう。
何故、どうして、とゼロティーでも降谷零は言っている。
ライがスコッチを理由なく見捨てるとは思えない。ライならスコッチを助けることができた。それを選ぶ男だと信じていた。事情があってあんなことになったはずだ。
とてつもない大きな信頼があったからこそ、降谷零はそこに理由を求めた。
でもライはなにも言わない。スコッチの自決を自分がやったと見せかけている。
色々なことが重なった降谷零は、ぐちゃぐちゃな感情をライにぶつけることしかできなかったのだろう。
赤井秀一はNOCバレした時点で、スコッチ自決の真実を隠蔽する必要はなくなった。
しかし、真実を明らかにするメリットもデメリットもない。
言う必要がないので、言わなかった。それだけだ。
次に降谷零の公安バレがやってくる。
赤井秀一にとってもまた、バーボンはもしかしたらと思える男で、そして実力を認めている相手だ。
スコッチとバーボンは同じ公安からきたNOCで、二人が仲間だったと知ったとき、赤井秀一は改めてスコッチを救えなかったことを後悔した。そして真実を隠すと決めた。
赤井秀一にとって、スコッチの自決の原因は『自分の過失』にある。
その過失は自分の銃を奪われるという、FBI捜査官としてあってはならないミスなのだ。
バーボンの足音も原因の一つだけれど、それは過失ではなく、ただの不運である。
友人と一緒に歩いていたら、友人だけ車にはねられた。そんな不運と同じだ。
助けようと駆けつけた降谷零の足音でスコッチが自決したなんてこと、降谷零は知らなくていい。降谷零に過失はなく、ただの不運に見舞われただけだからだ。
赤井秀一は、真実を隠し通すことを決めた。
スコッチ自決の責任の赤井秀一と降谷零の配分は、赤井秀一にとって、50:50ではなく、100:0である。だからバーボン=公安の潜入捜査官が確定したときの電話で、降谷零に謝罪した。アメリカ人で絶対に謝罪しない男が、わざわざ自分が悪かったと告げたのだ。
そして真実を中途半端に知っている降谷零は、赤井秀一の謝罪を受けて更に憎しみが募る。
降谷零がほしかったものは、「悪かった」ではなく「助けたかったが助けられなかった」という赤井秀一のたった一言の言い訳なのだ。
詳しいことは言わなくてもいい、助けたかったと思っていたのなら、それで許せた。
あなたも辛かったんですね、と終わりにできたはずだ。
この二人は和解できるのかどうか、真実を知った降谷零はどうなるのか。
いつかこの二人がスコッチの思い出話をしながら酒が飲む日が来てほしいと思う。